レビュー:公立と私立ってどっちがいいの?データで見る、『公立vs私立(橘木俊詔)』の紹介

レビュー:公立と私立ってどっちがいいの?データで見る、『公立vs私立(橘木俊詔)』の紹介

"小学校、中学校、高校、大学……、あらゆるカテゴリーで、公立か私立かという問題は大きな選択である。それぞれの学校選択が、後の人生にどのような影響を与えるのか"――高校・大学での国公立・私立論争に一石を投じる書籍『公立vs私立』の紹介記事です。

はじめに

『公立vs私立』の著者である橘木俊詔氏は、1967年に小樽商科大学を卒業、大阪大学大学院修士課程・ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(ph.D.)のち、仏・米・独での研究職・教育職を経て、京都大学教授。現在は京大の名誉教授、同志社大学経済学部の教授として、労働経済学を専門としています。橘木氏の著作は多岐にわたり、中にはベストセラーとなった『格差社会―何が問題なのか』ほか、『灘校』『早稲田と慶應』『学歴入門』など、教育と格差社会についての著書が多数存在します。

要するにすごい人です。

今日はその橘木氏の著書の一つである、『公立vs私立』の内容を紹介したいと思います。著作では高校レベルにおける『公立vs私立』にも言及していますが、今回は特に受験生の皆さんに有益となりそうな『大学』レベルでの『公立vs私立』の話に絞って紹介したいと思っています。参考になれば幸いです。

本の内容紹介

公教育と私教育の歴史を見てみよう

公教育と私教育のルーツを理解するためには、中世ヨーロッパでの教育の歴史を見てみるとわかりやすいでしょう。

中世ヨーロッパにおける教育のおこりは、イタリアのボローニャ大学、フランスのパリ大学、イギリスのオックスフォード大学がその代表例だといえます。これらの大学はもともと、キリスト教の神学校で、神学に付随する形で法学・哲学・医学などを教えるように発展していきました。また、当時は学生が教授へ払う授業料で成り立っていました。後に国家や領主が資金を提供するようになり「公教育」的な性格も帯びていきますが、基本的には「私教育」のような形態だったのです。また、これらの大学に入る学生は貴族・聖職者・裕福な家庭の子弟が主で、『家庭教師』をつけて個人的に学問を修めていました。

その意味で言えば、中世ヨーロッパの教育は「私教育」が中心だったのです。

では、「公教育」―さらに言えば「学校教育」は、どのようにして始まったのでしょうか。
それは、1789年にフランス革命がきっかけで始まりました。『自由・平等・友愛』を謳うフランス革命の下では、多くの人びとに公平な教育を用意ことができる「学校教育」が整備されていったのです。現在でもフランスは公立学校が圧倒的数を占めています。

日本の公教育と私教育

そんな中で、日本の公教育が明治維新期に始まりました。
初代文部大臣 森有礼主導のもと、富国強兵・殖産興業政策の実施にあたって優秀な人材を確保するため、国家が率先して教育の整備を行い、小学校⇒旧制中学⇒旧制高校⇒旧帝国大学という単線型教育制度が生まれました。言い換えれば、「エリートは国が養成するもの」だということになります。

一方で、大隈重信の東京専門学校(現:早稲田大学)、福沢諭吉の慶應義塾、新島襄の同志社といった私学も勃興したものの、全体としては依然として公教育が圧倒的な強さを誇っていました。

しかし第二次世界大戦後、日本の高度経済成長期には高校・大学への進学率がかなりの速度で高まり、公教育ではカバーしきれない分だけ私立高校・大学への需要が増加しました。また、より多くの私立学校法人が独自の教育方針で事業に参入したいという熱意が高まったこと、家計が豊かになったことも相まって「私学」の人気が上昇するようになったのでした。

現代日本の『国公立大vs私立大』:就職力編

ここからは、現代日本の大学における『公立vs私立』を見ていきましょう。
この段では大学の『就職力』から比較を行っていきましょう。

いわゆる「いい会社」へ行けるのはどちらの大学か、というのを考える場合に、国公立大の学生は公務員・法曹・教員・研究者の道へ進む傾向があります。そのため、一概に言うことは難しいものの、有力企業400社への就職率を調べた「2012年大学別著名400社 就職率ランキング全国版(出典:大学通信)」のデータを見てみましょう。この"400社"は、日経平均株価指数の採用銘柄、会社規模、知名度、大学生の人気ランキングなどを踏まえて作成されたものです。

データが示すとおり、大学の「就職力」においては国立の難関校がやはり優勢ですが、私立の一部有名校が健闘しています。また、25~50位のランキングには学習院・立教・青山学院といった首都圏有名校や私立の女子大学といった私立勢が過半数を占めています。

このような結果となった理由の1つに、「私立大学のハングリー精神とコミュニケーション能力」があると著者は指摘しています。早稲田大学を筆頭とした私立大学はサークル・部活動が活発で、大学の外へ一歩出たところでの交流が盛んであり、国公立大以上にコミュニケーション能力を含む人間力・ヒューマンネットワークの強さを磨ける、ということです。また、特にこれは早慶によく当てはまることですが「国立落ち」の優秀な学生は、挫折をバネにして前へ進もうとする"負けじ魂"があります。このことも、ビジネスの場で評価される要因となっているようです。また、MARCHなどの大学出身者にも「早慶を倒すぞ」といった対抗意識が有り、総じて私大生には「ガッツ」があると言えるかもしれません。

現代日本の『国公立大vs私立大』:学問・研究編 

一方で、「教養・学問を探求する力」という観点からすると、やはり東京大・京都大といった上位の国立大学が圧倒的です。その理由として挙げられるのが、「科学研究補助金(科研費)」の配分額の多さでしょう。研究は優秀な研究者の能力も必要ですが、それと同じくらい莫大な資金が必要です。その意味で、科研費の配分額=研究をする上での基礎体力となることは否めません。文部科学省によるデータが以下に示すように、早稲田・慶應でさえも全体の11位になってようやくリストに載るレベルです。また、教員1人に対する学生数の割合から見ても、国立大学の方が圧倒的に小さく、その意味できめ細かい少人数教育を行うことができることも、有為な研究者を生み出す土壌になっていると考えられます。実際、これまでの日本人研究者でノーベル賞を受賞した研究者は、すべて国立大学出身であることからもそれがわかるかと思います。

評価

良かった点:綺麗に整理された知見を得られる

記事で紹介した内容は大学レベルでの話を抜粋しましたが、実際には大学以外での『公立vs私立』の話も盛りだくさんです。単なる"学歴論争"に留まらず、学校教育に関する概論から日本の具体的な教育政策についても綺麗に抑えられているため、バランスの良い内容になっていると思います。また、ページ数もそこまで多くなく、読みやすい文体で書かれているため手に取りやすいでしょう。また、独自に集計したデータに基づいた記載も多く、興味深いトピック(私立高校・公立高校の"いじめ"アンケート等)に触れている点も素晴らしいです。

自分の受験校を決めかねている高校生・浪人生や、学校教育に関する基礎知識について表面的に押さえておきたい大学学部生におすすめの本と言えそうです。

良くなかった点:結局は「ずっと言われてきたこと」のまとめ

たしかにこの著書は「(一部はこの本のために独自に集計した)データ」を用いて『公立vs私立』を比較していく点で興味深いのですが、結局のところは『週刊ダイヤモンド』といった週刊誌が時折まとめる"学歴ネタ"と近い論調・論理づけになっており、そういった話に慣れている人からしたら「ありきたり」な内容になるかもしれません。悪く言うなら、『ネット掲示板の学歴論争を洗練させた』ようなものです。

おわりに

いかがでしたか。
記事では大学における『公立vs私立』のみを紹介しましたが、この本はデータをふんだんに使っていることもあり、他にも興味深い内容が盛り込んであります。しっかりと整理されているだけあり、「読んで損する」ことは全くないと言ってよいかと思います。気になったら、ぜひ手に取ってみてくださいね。

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たかみ

慶應義塾大学法学部に在籍している2年生かつ、底辺高校出身、元学校嫌いの意識低い系。自分の経験を踏まえてモチベーション・自己管理などの記事を発信したいと思います。また、家庭教師・個別指導のアルバイト経験を活かして受験勉強に関する情報も発信できたらと思います。

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